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2014年1月

2014年1月 3日 (金)

正統と異端(3)~異色の経済学者 松尾匡さん

 正統と異端などと大仰に構えて抽象論を振りかざすのはこれぐらいにして、異色の経済学者である松尾匡さんを紹介しましょう。

 その前に、これまで度々触れてきたリフレ派とは何でしょう。それは、インフレ目標を定めた大規模な金融緩和によって景気拡大を図ることを主張する経済学的立場です。インフレ目標とは、日本銀行が2%のインフレを2年をめどに実現すると宣言した、あれです。

 もう少し付け加えると、リフレとはリフレーション(reflation)の略語で、金融政策によってデフレーションから脱却し、低インフレに物価を安定させることで、雇用の最大化や経済成長の安定をなしとげることをめざすものです。

 このリフレ派は、少数派や異端の秘密結社などではなく、世界の標準的な経済学を主張しているだけ(と本人たちはおっしゃっています)ですが、日本では90年代以降、論争が繰り返され、肝心の日本銀行に頑なに否定されてきたため、採用されないままでしたが、ようやくアベノミクスで採用されたというわけです。

 さて、松尾匡さんです。

 彼は何と、マルクス経済学者です。70年代以前の経済学界ならともかく、今や、少数派の異端そのものの学派ですね(笑)。しかも私と同い年(1964年生)ですよ。何と物好きな!(松尾先生ごめんなさい)

 松尾さんは『新しい左翼入門-相克の運動史は超えられるか』なんていう本も書いていて、明治時代以来の左翼運動家たちについて熱く語ったりしています。貧しい人たちや弱い立場にある人たちのことを何とかしたいという思いを強くもっている人だと思います。

 その彼がリフレ派支持、というよりその一員なのです。ちなみに他のリフレ派の方々は、いわゆる近代経済学のそれもきわめて主流で正統な理論を学んできた方々です。

 彼のすごいところ、尊敬するところは、マルクス主義の理論や運動に閉じこもらず、世界や日本の経済学界の主流の理論を徹底的に学んでいるところです。そして、リフレ派の理論的、実証的正しさを認め、むしろ弱者にやさしい左派こそその理論を取りいれるべきと主張し、十分に理解しないまま安易にアベノミクス批判を展開する左派を厳しく戒めておられます。参議院選挙前のあるラジオ番組では、社会民主党の福島瑞穂党首(当時)に対し、電話で、金融緩和にだけは反対しないようにと直訴しておられました。

 彼には『対話でわかる痛快明解経済学史』という著書もあります。この本、なかなか面白いです。内容は、本格的な経済学史で数式もたびたび出てきて難しいのですが、その対話の趣向が笑えます。謎の占い師(霊媒)に歴史上の大物経済学者が次々と降臨して、自らの経済学を語ります。聞き手は経済学部の女子学生。その指導教官はバブル期の青春時代が忘れられない独身女性教授。松尾先生、それって我々の世代じゃないですか(笑)。

 松尾さんはマルクス経済学者ですから、きっとスピリチュアリストが敵視(?)する唯物論者なのでしょう。そういう意味では、この趣向は、オカルト趣味に対する揶揄や皮肉が入っているのかもしれません。ただ、それにしてはやたらと設定がマニアックで、松尾先生、実は隠れオカルトファンですかと問いたくなりました。

 主流派経済学からオカルトまで、本当によく勉強している方です(笑)。

 アベノミクスに話を戻しましょう。

 松尾さんは、左派も「大胆な金融緩和」には大いに賛成した上で、賃上げが必要ならそれを主張すればいいじゃないかとおっしゃいます。金融緩和なき賃上げは、それ以外の部分の引き締めになるんだよと。左派が、介護や医療、教育、子育て支援などを充実させたいのなら、その財源を「大胆な金融緩和」で生み出せばいいじゃないかと。民主党政権が取り組んだ子ども手当や高校無償化や震災復興も「大胆な金融緩和」によれば、経済停滞は招かなかったのにと。

 つまりアベノミクスの第1の矢に賛成しても、野党は、すなわち少数派や異端の側は、いくらでも対立軸や対案を打ち出せるはずだということなのでしょう。

 松尾さんが最も恐れるのは、左派がそういう考え方をできずに、アベノミクス全体を雑に批判してしまい、結局「大胆な金融緩和」効果で景気が回復し、その手柄をすべて安倍政権にもっていかれてしまうことです。

 松尾さんは「本来左派側の政策のはずだったのに」という論文(『日本経済は復活するか』所収)を次のような文章で締めくくっておられます。

 「左派やリベラル派が願望半分で民衆に恐怖のハルマゲドンをさんざん予言したあげく、いざそうならずに好況が実感されることになったならば、次の選挙での安倍総理の殺し文句はこうだろう。『あんなことを言っていた人たちに政権を渡して、また不況に戻りたいですか。』」

 恐怖のハルマゲドン・・・松尾先生、私たちノストラダムス予言に脅された世代は、恐怖のハルマゲドンに恨みがありますもんね。先生、やっぱり隠れオカルトファンでは?(笑)

 いや、そういうことではなく、異端や少数派を自覚する者こそ、主流や正統と呼ばれる立場をしっかり理解しようと前回偉そうに書きました。異色の経済学者 松尾匡教授は、そのお手本のように思います。

《参考文献》
松尾匡『不況は人災です!みんなで元気になる経済学・入門』
松尾匡『対話でわかる痛快明解経済学史』
田中秀臣編『日本経済は復活するか』

松尾匡のページ
http://matsuo-tadasu.ptu.jp/

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2014年1月 1日 (水)

正統と異端(2)~異端の心構え

 あけましておめでとございます。
 本年もよろしくお願いいたします。

 年末に大仰なテーマで書き出してしまいました。
 その続きです。

 前回、「異端の立場に立つ者が、主流や正統にどう向き合うのか」と問いかけました。
 それに対する私の端的な答えは「主流や正統と呼ばれる立場をしっかりと理解せよ」というものです。当たり前すぎるでしょうか。

 主流や正統になっているものには、そうなっただけの理由があります。権力をもっているからとか、闇の勢力に操られているから(陰謀説)といったことで片づけてしまうのは乱暴です。逆に、少数派や異端になっているのにもそれなりの理由があるはずです。そこのところを謙虚に自覚する必要があります。

 主流や正統が必ずしも正しいとは限らない。これは真(正しい)です。しかし、そこから、「少数派や異端こそが正しい」とするのは、明らかに飛躍です。歴史的に見ると、確かに、少数派や異端が、後に正しいと判明したり、主流になったりすることがありました。しかし、それはきわめてまれです。「我らは今は異端だが、それゆえ正しいのだ」というのは、論理的に全く成り立ちません。

 この少数派や異端であるがゆえに正しいという発想は、行き過ぎるとカルト的になります。以前、紹介しましたが、オウム真理教の幹部だった上祐史浩氏は、『オウム事件17年目の告白』においてオウムの思想を次のように総括しています。

 「麻原・オウム真理教の思想の特徴は、善悪二元論だった。自分たちこそが預言された、生き残るべき神・キリストの善業多き魂の集団で、残りの社会の大半は滅ぶべき(ポアされるべき)悪業多き魂として、世界を善悪で二分化するものだ。
 しかし、これは、明らかな妄想だった。自分たち=教団に関しては誇大妄想であり、他者=社会に対しては被害妄想を抱くものだったのである。」

 少数派や異端を自覚する人たちが、主流や正統の側を理解せず、独りよがりに陥った先は、このような誇大妄想と被害妄想ではないでしょうか。その歪んだ一形態が、最後の審判やハルマゲドンを待望する終末論です。そのとき異端と正統が入れ替わる大どんでん返しが起きるのを期待するわけです。

 そんなものはいつまで待っても来ません。異端は正統をしっかり研究して、こつこつと努力して、いつか正統と呼ばれるように地道に努力しましょう。

 少し話が広がりすぎました。経済的な話に戻ります。
 資本主義という正統に対抗しようとした社会主義という異端(と呼ぶにはあまりに大きなものでしたが)は、ことごとく失敗に終わりました。

 私が学生だった頃は、すでに社会主義は輝きを失っていました。しかし、先進工業国が進んだ道をほかの国々も追いかけるのが果たして正しいのだろうかという異議申し立てがあちこちでなされていました。そして様々な異端の理論が提唱され、また実践されました。私もまた、そうした流れに夢や希望を託していた一人だったように思います。

 しかしながら、こうした実践もまた、多くが失敗したばかりではなく、多くの罪のない人たちを貧困や飢餓や人権抑圧という悲惨な状況に追い込んでしまったように思います。

 私はこういう状況を見聞したときに、たとえ社会をよりよい方向に変革したいという思いからであっても、安易に異端の理論に乗っかることは危険であると考えるようになりました。むしろ主流や正統と呼ばれる経済学の立場をきちんと理解すべきではないかと。失敗の原因、というより、そのような失敗が明らかなものに安易な期待を寄せてしまった原因は、経済学の無理解にあったのではないかと。

 まあ、そんな思いで、専門外ではありますが、ときおり経済学の本や経済学者の発言を追いかけてきた中で、この人たちは理論的にも実証的にもかなり本物ではないかと感じたのが、リフレ派と呼ばれる経済学者たちでした(アベノミクスが登場する随分前のことです)。

 そして、そのリフレ派経済学者の中に松尾匡さんという風変わりな学者がいます。
 次回こそ(笑)、その方を紹介しましょう。

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