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2010年5月17日 (月)

ベトナムの禅僧 ティク・ナット・ハン

 私は父と母を立て続けに亡くした数年前から、しばらくの間、仏教に救いと癒しを求め続けました。そのころ仏教は静かなブームとも言われていました。オウム真理教の事件があって以降、新宗教や精神世界に対する偏見や警戒心が高まり、日本の伝統的宗教である仏教なら安心できるということだろうという解説も聞きました。

 日本人にとっては、仏教とは、何やらお地蔵さんに象徴されるような、ほのぼのと温かいイメージがあるのかもしれません。しかし、理屈の応酬が大好きなインド社会で生まれた仏教は、実はとても論理的で、徹底的に思考に思考を重ねた、そしてときにはとてもドライなところもある宗教だと思います。少なくともインド仏教の森に分け入ってしまった私はそう感じました。そして、学んでも学んでも救いや癒しはあまり得られず、迷路に入り込んでしまったような気がしました。(このあたりは大いに異論があるかもしれませんね)

 そんな中で、ベトナム出身の禅僧、ティク・ナット・ハンに出会った印象は鮮烈でした。正直言って、禅僧というと何やら私たちより一段高いところから、難しいことを難しく語る人たちという印象がありました。しかし、ティク・ナット・ハンの語る言葉は、とてもやさしくシンプルで温かいものでした。

 彼の説く瞑想は、決して足が痛くなるような不自然な姿勢を強いることも、厳しい修行を要求することもありません。歩きながら、呼吸に意識を集中しながら行う瞑想というのも彼がよく勧める方法です。「あわれみをもって耳を傾けるための瞑想」というのを紹介します。

1 息を吸いながら、いま息を吸っているのだと考える。
  息を吐きながら、いま息を吐いているのだと考える。
2 息を吸いながら、体を落ち着かせる。
  息を吐きながら、微笑む。
3 息を吸いながら、私は苦しんでいるのだと考える。
  息を吐きながら、あわれみをもって微笑む。
4 息を吸いながら、あなたも苦しんでいるのだと考える。
  息を吐きながら、あわれみをもって微笑む。
5 息を吸いながら、私たちはどちらも苦しんでいるのだと考える。
  息を吐きながら、私たちのどちらにも新しい機会がありますようにと考える。
6 息を吸いながら、耳を傾けようと考える。
  息を吐きながら、話を聞こうと考える。
7 息を吸いながら、あなたのつらさを聞き取ろうと考える。
  息を吐きながら、あなたを心から受けとめようと考える。
8 息を吸いながら、あなたの誤解を聞き取ろうと考える。
  息を吐きながら、怒りに激しないようにと考える。
9 息を吸いながら、私があなたを苦しめたのだと考える。
  息を吐きながら、ごめんなさいと考える。
10 息を吸いながら、心を開こうと考える。
  息を吐きながら、私の心にはあなたを受け入れる余地があると考える。
11 息を吸いながら、私は幸せになりたいと考える。
  息を吐きながら、あなたにも幸せになってほしいと考える。
12 息を吸いながら、私たちが幸せになっている姿を考える。
  息を吐きながら、それこそが私の願いだと考える。

 この瞑想は、ティク・ナット・ハン著『あなたに平和が訪れる禅的生活のすすめ』という本の中で紹介されていました(他にもいろんな瞑想が紹介されています)。原題はCreating True Peace:Ending Violence in Yourself, Your Family, Your Country, and the World とのこと。本当に、平和を創り出してしまいそうな瞑想ですよね。

 こんな風に紹介すると、ティク・ナット・ハンとは、おだやかでやさしいだけの老僧(1926年生)と思われるかもしれません。しかし、彼は実は、ベトナムで16歳のときに禅僧となったものの、インドシナ戦争やベトナム戦争によって祖国が疲弊していくのを放っておくことができず、僧院を飛び出して社会事業に邁進していった熱血僧なのです。そして、社会の状況に積極的に関与していく「エンゲージド・ブディズム(行動する仏教or社会に関与する仏教)」を提唱し、実践していきます。1966年にはアメリカを訪れて和平提案のスピーチを行ったことから、帰国不可能となり、フランスのプラム・ヴィレッジという共同体を拠点に活動を続けています。

 ティク・ナット・ハンは、私にとっては、広大で深い仏教の森の中で迷っていたときにみつけた宝石のような存在です。スピリチュアリズムとは少し違うけれど、間違いなく本物の宗教者だと思います。

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